第4話 その時は突然に

百貨店に就職大学を卒業し、地元の百貨店に就職することが出来た。


朝から晩までの忙しい日々だったが、毎日が充実していた。


職場は実家から通える範囲で、実家から通うようにした。母親も安心してくれていたようだった。


ただ、貸金業者からの借り入れは限度額ギリギリの状態だった。何かとお金が必要な機会があり、そのたびに利用していた。


このことは誰も知らない。勿論母親も。

少ない給料から少しずつ返済

就職をしたことで、毎月約15万円は手取りでもらえるようになった。新入社員だからそんなものだろう。その中から8万円を毎月実家に入れることにした。


どのくらい家にお金を入れたら良いのか分からなかったが、家賃と食費というように考えれば、妥当な金額だと思ったからだ。


自由に使えるお金は7万円。その中から大学時代の奨学金や携帯電話代など、生活に必要な支払いをしていった。それでも、手元には毎月貸金業者への返済分は残っていたので、しばらくは順調に返済することができた。


それでも突然の出費というものはあるもので、手持ちがないときにはキャッシングカードを利用していた。

ついに恐れていた事態に・・・

そんなある日、事件が起こった。


キャッシングマシーンから現金を引き出したときに、一緒に出てくる取引明細書。これをポケットの中に入れたままにしておいたのだ。それをそのまま洗濯物として、出してしまった。


それを母親が見つけてしまったのだ。


「これは何?」


母親は僕に尋ねた。


「え~っと・・・」


頭が真っ白になって言葉が出てこなかった。一番知られたくない母親に貸金業者との取引を知られてしまった事実が、僕をパニックに陥れたのだ。


「お金を借りているの?」


「いつから?」


「返済できる目途はあるの?」


母親からの投げかけに何も返事が出来なかった。


「今すぐ、全額返してきなさい。」


出来るはずがない。貯金など、ほとんどないからこそ、キャッシングカードを利用していたからだ。


すると、母親はすっと立ち上がり、タンスの中から通帳と印鑑を出してきて、僕に差し出した。


「これは、あなたが仕送りを断ってきてから、あなたが大学を卒業するまでの間、貯めておいたお金。もし、また仕送りが欲しいって言ってくるときに、ここから渡そうと思っていたの。」


仕送りを断ってから約1年間。毎月8万円ずつ貯金してくれていた。生活が苦しいはずなのに。


思わず涙が出た。


母親に心配をかけないために作ったキャッシングカードが、今は母親を苦しめている。


そう思った。


いや、キャッシングカードが悪いんじゃない。それを利用していた僕の使い方が悪かっただけなのだ。


「ありがとう。必ず毎月少しずつでも返すから。ありがとう。」


目の前が涙で曇りながら、母親の差し出した通帳と印鑑を手にした。


「解放された気持ち」「母親に申し訳ないと思う気持ち」「秘密がばれた気持ち」「情けない気持ち」と色々な気持ちが交じり合っていた。

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