第5話 自ら足を踏み入れた

母親のおかげで、貸金業者との縁は切れた。全額返済できたのだ。


この時23歳。


貸金業者との取引は約2年だった。

平穏な日々・・・のはずが・・・

それから、しばらくは平穏な生活が続いた。しかし、言っても安月給。貯金が貯まることはなかった。


24の夏、彼女ができた。


同じ職場の同僚だ。


彼女が出来た彼女に格好良く思われたいために、ローンを組んで車を買った。更に、食事はちょっとお高いレストラン。


当然、出費はかさんだ。


でも、こうすることでしか自分を格好良く演出することが出来なかった。


「お金を借りるか?」


一瞬頭をよぎった。


困ったときには何かと利用していたからだ。


でも、それは出来ない。


通帳と印鑑を静かに手渡してきた母親の表情を今でも忘れられないからだ。


同じ過ちは2度と繰り返したくはない。


でも、彼女に良く見られたい。


悩んだ。


正直、こんなことで悩むのはおかしいのかもしれない。冷静に考えればどちらを選択すればよいのか分かりそうなものである。


ただ、冷静でなくなると僕はおかしな言い訳を付けて、最悪の選択をしてしまうようだ。


「彼女とは結婚をするかもしれない。ほんの少しくらい借りる程度なら、十分返済していける。ボーナスが入ればすぐに返済できる。」


貸金業者と取引が再び始まった。


まさか、この取引再開が、その先ずっと続くことも思わずに。

勘違いで格好付けていただけ

彼女との付き合いが2年続いたある日、彼女に言われた。


「ねぇ、ちょっと無理していない?別に僕は食事が出来ればどこでもいいし、デートは公園でも全然構わないよ。」


ドキッとした。


彼女は同じ職場の同僚なわけだから、僕がどのくらいの給料をもらっているのか、大体分かっている。


それなのに、頻繁に高級なレストランに行っているわけだから、おかしいと思うのも当然なのだ。


「いや、大丈夫だよ。でも、今度からはファーストフードもいいね。」


そう、冷静を装い、違う話題に変えた。

その後、高級レストランへ行く回数を減らしたが、彼女の態度は全く変わらなかった。


彼女が言った言葉は本当だった。


お金を借りてまで格好付けようとして行っていた行為が、ただ自分を苦しめるものになっていたのだ。

一生の決断の時

彼女と付き合って3年目。僕はプロポーズをした。借金のことは話さずに・・・。


彼女からの返事はOK。


天にも昇るような気分だった。

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